
このコーナーでは、横浜中華街発展会協同組合の理事として、中華街の街づくりやイベントに携わる地元の皆さんの声をリレースタイルでお届けします。
今回は新年のスペシャル版として、(株)萬珍樓・代表取締役社長で横浜中華街発展会協同組合理事長の林 兼正(はやし けんせい)さんに、2012年における中華街の進むべき方向性や、日本社会の再生にかける思いを語っていただきました。
昨年は3・11の震災と原発事故により、日本中が大きな衝撃と悲しみに包まれました。街には自粛ムードが漂い、震災直後はここ横浜中華街も多くの店舗が休業し、観光客で賑わっていた通りから人影が消えました。
街に人が来ない、従業員が中国へ帰ってしまった、開店してもほとんど売り上げがない……そんな状況を見聞きする中で、このままでは中華街の半分以上の店がつぶれてしまうかもしれないと、私自身も大きな危機感を抱きました。
そこで街の皆が立ち上がり、被災地支援への思いを込めて開催したのが3月20日の媽祖祭です。当初は自粛すべきだという声もありましたが、私たちがあえてイベント開催に踏み切ったのは、どんな時でも商人はプラス思考で前進しなければいけないからです。街に活気を取り戻し、日本を元気にしていくためには、我々商人が自粛していては絶対にダメなのです。
こうして、震災直後に開催した媽祖祭によって、中華街は早いタイミングで立ち直り、ゴールデンウィークにはお客様もかなり戻ってきました。そして秋以降には、例年と変わらぬ賑わいを見せるようになりました。
加えて、来年の2013年には、東武東上線・西武池袋線から東京メトロ副都心線・有楽町線を経て、東急東横線とみなとみらい線までがひとつの路線としてダイレクトに結ばれ、北関東や東北方面から中華街へのアクセスがぐっと便利になります。これにより中華街の商圏が広がり、さらなる集客アップが見込めると私も大きな期待を寄せています。
とは言っても、いまだ不透明な日本経済やヨーロッパの金融危機など、景気を左右する不安材料は尽きません。中華街がようやく震災の低迷から立ち直り、今後さらなる成長を目指すためにも、2012年は各店が基本をおろそかにせず、脇を締めて商売をしていくことが重要だと思っています。
ところで、日本人はよく依存型の民族だと言われますが、昨年の震災をきっかけに、多くの人たちの意識が大きく変わったと感じています。
これまでは、社会保障や環境の問題でも「困った、ダメだ」と言いながら、誰も本気で解決しようとはしなかった。そんな調子で、「誰かがやってくれるだろう」「どうにかなるだろう」と見て見ぬふりをしてきたのが、震災や原発事故という未曾有の状況に直面したことで、初めて国民が自分で物事を考え、行動するようになったのです。こうして崖っぷちの状況に立たされると、俄然、力を発揮するのが日本人の優秀なところだと思います。
確かに、震災や原発事故は日本人に大きな苦しみを与えましたが、将来に向けて国を再生し、再構築する大きなきっかけになったとも言えるでしょう。そうした意味で、この機会を日本のチャンスと捉えたいと私は思っています。
たとえば、国民レベルで脱原発の動きが活発になったのも、原発の安全神話があっけなく崩れ、安いと言われていた発電コストも、実はとんでもなく高かったということで、もはや人任せでは自分たちの身は守れないと、多くの人たちが立ち上がったからでしょう。
本来なら早期に取り組むべき消費税の問題が、ようやく昨年になって浮上してきたのも、国が何兆円もの借金を抱える中で、東北復興のための財源を確保する必要が出てきたからです。子どもや孫の世代に借金のツケを回して、今は何とか持ちこたえているかもしれないが、このまま行ったら国がつぶれるかもしれない……日本の緊急事態に際して、いま本気になってやらないとマズイと気づき、ようやく政治家も重い腰を上げたのです。
消費税アップについては賛否両論あると思いますが、いずれにせよ、国が目先のバラマキや数字の帳尻合わせだけしていても、日本は救われません。今後の日本や世界の経済・産業の動向を分析して、将来への投資となるような政策や制度、予算づくりに取り組み、必要があれば法律を変えても推進していくことが、これからの日本のリーダーに求められるのではないでしょうか。
こうした考え方は、会社や店舗経営についても同様のことが言えます。
私たちの商売の基本は、「モノを10円で仕入れ、それを30円で売ること」で成り立っていますが、「原価がいくらで、それをいくらで売ったら、いくら儲かる」という経理の発想だけでは、決して店は生き残れません。扱う商品の種類や商売の形態、在庫の有無や売れ行きの状況など、さまざまな条件に応じて実質的な損失・利益というものは変わってくるからです。
数字上では黒字でも倒産する(黒字倒産)会社があるのは、まさにこのためです。これについては、また別の機会に詳しくお話させていただこうと思いますが、要は「経理と経営はまったく違う」ということを経営者が知らなければ、いつか会社はつぶれてしまうのです。
同様に、会社の利益は「経費」だということも忘れてはいけません。なぜなら、商売で上げた利益は、次に来るお客様に投資するための資金だからです。
アメリカなどでは、利益が出ると株主の配当をどんどん増やしますが、会社として保留しているものがなくなる(=企業力は伸びない)ので、いま儲かっていても何年かすると他の会社に飲み込まれてしまうんです。
自分たちの給料を払ってくれているのは、社長でも株主でもありません。お客様が支払ってくださるお金が、自分たちの給料となっているのです。お客様から給料をいただいているのですから、私たちは顧客満足のために努力し、上げた利益を次のお客様のために投資するのは当然のことですよね。
だからこそ、提供する商品やサービスの質、おもてなしの心……こうした基本姿勢に徹底的にこだわり、つねに追及し続けることが、店を長続きさせることに結びつくのだと私は考えています。
とくに2012年は、これまで溜め込んできた世の中の「歪み」を修正し、一人ひとりの自立心や判断力が問われる大事な年になると思っています。まだまだ苦しいかもしれませんが、新たなステップに向けてプラス思考で臨み、自分たちの基本姿勢をしっかり固めることが、何よりも重要になってくるでしょう。
ちょうど今年は辰年、「昇り龍」の年でもあります。私たち横浜中華街も天に舞い上がる龍のごとく、さらなる飛躍を目指して一歩一歩、着実に前進してまいりたいと思います。
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