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中華街小故事

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横浜開港150年企画

1859年7月1日。日本が外国に向けて開港した日、日本の近代史がスタートし、中華街誕生への時計も動き出しました。来る開港150年に向け、中華街に残る開港の足跡を訪ねて、歴史ある横浜と中華街の秘密に迫ります。

その8 中華街に日本屈指のピアノ専門店があった!

激動の時代に楽器づくり一筋”周ピアノ”
萬珍樓に置かれた2台のピアノ

中華街大通り沿いにある老舗中華料理店「萬珍樓本店」のロビーとフロアに、2台の古いピアノがあります。大切に保管・展示され、1~2カ月に1度行われる演奏会には多くのファンが集まるというこのピアノは、“周ピアノ”といいます。かつて中華街で作られていたピアノです。周ピアノは、明治、大正、昭和という激動の中華街を物語るひとつの象徴として、この街で大切に語り継がれています。

萬珍樓本店にある周ピアノたち。左がロビーに置かれた二代目が製作したピアノ、右がフロアに置かれた初代製作のピアノです。

洒落た木彫りの看板が目印

山下町123番地にあったその店は「周興華洋琴専製所」といいます。現在の南門シルクロード沿い、元町寄りにありました。目印は3本の音叉をあしらった洒落た木彫りの看板。店主は周筱生(しゅう しょうせい)という20代半ばの若者でした。

周筱生は、中国浙江省鎮海県黄河村という貧しい村の出身で、兄とともに上海へ出て、イギリス系の楽器商モートリー商会でピアノ製造・販売に従事。10年以上、上海で腕を磨いた後、1905年(明治38年)、横浜に来日し、スウェイツ商会のピアノ工場主任として働きます。その勤めの傍らで中華街の一角に研究所を設け、独力でのピアノ製造を試みます。そして、1912年(明治45年)、念願の店を構えるのです。

通りの左手前に掲げられているのが“周ピアノ”の看板です。

初代周ピアノの商標。山下町123番地という住所も入っています。周ピアノは3本の音叉がトレードマークです。

ピアノ一台と家一軒が同じ値段!?

当時、ピアノは家が一軒建つほどの高価なものでしたが、周ピアノの評判は高く、音の良さと装飾の美しさに定評があり、売れ行きは好調でした。開店当時、横浜市内には10館前後の劇場がありオペラなどの公演もしばしば。ピアノの製造だけでなく、調律や修理などでも活躍したことでしょう。店は繁盛し、5年後には、堀ノ内(現・横浜市南区)に新工場を建設。若き実業家の事業は大成功をおさめます。ちなみに、同時代の国産ピアノとしては、静岡の日本楽器(現・ヤマハ/1900年~ピアノ製造)、横浜の西川ピアノ(1886~21年ピアノ製造)がありました。

1913年、新聞「ジャパン・ディレクトリ」に掲載された周ピアノの広告。

震災、そして戦争…

順調だった周ピアノですが、1923年(大正12年)9月1日の昼、関東大震災が店を襲います。金床に足をはさまれ逃げ遅れた店主は落命。次男も亡くなり、店も崩壊してしまいます。しかし、瓦礫と化した街で、残された妻が中心となり、40名のピアノ職人らとともに堀之内の工場を再起。7年後には、長男の周譲傑(しゅう そんじぇ)が工場長となり、二代目の時代を迎えます。譲傑は中国やヨーロッパにも出張するなど、経営は順風満帆。工場1Fにはショールームや応接室も作られました。

が、またも周ピアノを悲劇が襲います。日中戦争、そして第二次世界大戦の勃発です。1945年(昭和20年)の空襲で工場は焼失。部品の仕入れで頻繁に上海と横浜を行き来していた譲傑には、スパイ容疑がかけられ、連行されてしまいます。譲傑は、終戦の翌年3月に死去。こうして、激動の時代に、中華街の片隅から素敵な音色を届け続けた周ピアノの歴史にピリオドが打たれたのです。

全国で発見される周ピアノ

震災と空襲という二度の壊滅的被害を受けた横浜にあったため、現存は厳しいと考えられていた周ピアノですが、近年、初代周ピアノ発見のニュースも飛び込み、初代・二代目作を含め全国で10台あまりが確認されています。

そのうちの2台が、「萬珍樓本店」のロビーに展示されている、あのピアノたちです。初代作のピアノには“S.CHEW PIANO”、二代目作のピアノには“S.CHEW&SON”の銘が入っています。それぞれ持ち主から縁あって寄贈され、2007年から展示されています。また、2004年には、群馬県桐生市で初代周ピアノが発見されました。養蚕が盛んだった桐生の豪商が絹織物の輸出港だった横浜に来た際、購入し持ち帰ったとされ、1922年12月6日購入という記録も残っています。さらに、2006年には1915年頃の作とされる現存する最も古い初代周ピアノが発見され、初代の孫で調律師の周斐宸(しゅう ひしん)さんの元へ届けられました。このほか、京都で発見され岡山県内の障害者施設に寄贈された1台は、今も手入れされ現役で音色を奏でているそうです。

時代を超えて、奇跡的に残った周ピアノ。中華街を訪れた際には、その姿に会いに行ってみてください。

取材協力:横浜開港資料館
参考資料:横浜開港資料館『横浜もののはじめ考』・『横浜の芝居と劇場』、横浜市歴史博物館『製造元祖 横浜 風琴洋琴ものがたり』、読売新聞社横浜支局『落地生根-横浜中華街物語』
※画像は横浜開港資料館より許可を受けて掲載しております。画像の無断使用・転載はおやめください。

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