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横浜開港150年企画

1859年7月1日。日本が外国に向けて開港した日、日本の近代史がスタートし、中華街誕生への時計も動き出しました。来る開港150年に向け、中華街に残る開港の足跡を訪ねて、歴史ある横浜と中華街の秘密に迫ります。

その10 海外ニュースを伝える日本語新聞、誕生!

関帝廟の傍らが、日本の新聞発祥の地
日本語で書かれた新聞、『海外新聞』創刊!

現在、日本全国で100紙以上が発行されている新聞ですが、そのはじまりの地が中華街にあります。関帝廟の近く、「日本における新聞発祥の地」の石碑が建つ、かつての居留地141番地です。 開港から5年ほど後の1864年(元治元年)[1865年(慶応元年)という説も近年有力]、ここで、日本初の日本語新聞が作られました。新聞の名前は『海外新聞』。発行者はジョセフ・ヒコといいます。

江戸見物の帰りに船が難破…。アメリカへ渡ったヒコ

『海外新聞』の発行者であるジョセフ・ヒコは、兵庫県生まれの日本人で、日本名は浜田彦蔵。彼は、アメリカ国籍をもった帰化人第1号としても知られています。 ヒコは、1850年(嘉永3年)、13歳の時に江戸見物から船で故郷へ帰る途中、遠州灘で暴風にあい、太平洋を漂流…。アメリカ商船に救われ、渡米します。そのままアメリカで暮らすこととなり、カトリックの洗礼を受け、ジョセフ・ヒコを名乗りました。そして8年後、21歳となったヒコは、アメリカ領事館ハリスの通訳として帰国。開国直後の日米交渉などで大活躍します。

ジョセフ・ヒコはリンカーン大統領と会見した唯一の日本人で、伊藤博文や木戸孝充らに民主主義を伝えました。

定期購読者はたったの4名!?

そんなヒコは、手書きで作った『新聞誌』を前身に、4月8日、『海外新聞』を創刊します。発行にあたっては、日本初の和英辞典の編集に携わった岸田吟香(ぎんこう)らも協力。外国商船などで持ち込まれた外国の新聞を翻訳し、最新の海外ニュースを国別で紹介したほか、商品相場や広告なども掲載されました。現在の新聞とは異なり、二つ折りの半紙を4~5枚重ね和綴じした冊子のようなもので、木版刷り。創刊時の定期購読者はわずか4名だったそうです。

次々に新創刊され、新聞は横浜から全国へ

『海外新聞』は、1866年(慶応2年)、ヒコが長崎へ転居するのを機に廃刊。26号が最終号となりました。その後、イギリス人による『万国新聞紙』(1867~68年)、アメリカ人による『横浜新報もしほ草』(1868~70年)などの日本語新聞の発行が続き、ついに1871年1月28日(明治3年12月8日)、日本初の日刊の日本語新聞『横浜毎日新聞』が創刊されます。発行当初は木活字でしたが、早くから鉛活字へ移行し、洋紙両面刷りで発行された画期的なこの新聞は、のちに本拠地を東京へ移し、全国紙へと発展していきました。

翻訳本ではない“新聞”という文化

ちなみに、“新聞”の名のついた発行物としては、『海外新聞』創刊の2年前に発行された『官板バタヒヤ新聞』があります。幕府の藩書調所が、鎖国時代の唯一の貿易国、オランダからもたらされた新聞を翻訳して発行したものです。“バタヒヤ"はオランダ領時代のジャカルタの呼称です。その後、同じ手法で、中国各地で英米宣教師が作った中国語の新聞なども翻訳、発行されます。

しかし、これらは新聞の名がついているものの、ヒコの『海外新聞』とは性格がまったく異なり、翻訳本に近い内容です。開国とともにもたらされた“新聞”という文化。複数の情報を元に、速報性をもって、より正確な情報の伝達を目的に、一般大衆へ向けて、定期的に発行するという近代新聞の意味からも、『海外新聞』こそが、日本における新聞のはじまりと考えられているのです。

外国人たちのための各国新聞もずらり

『海外新聞』が発行された頃、外国人居留地では、すでに英字新聞が出回り、イギリス人による日刊紙『デイリー・ジャパン・ヘラルド』や、ポルトガル人による週刊紙『ジャパン・コマーシャル・ニュース』などがあり、その後も、フランス、ポルトガル、ロシアなど各国語の新聞が発行されました。

中国語の新聞が発行された記録は残っていませんが、1898年(明治31年)には中国語の雑誌『清議報(しんぎほう)』が創刊。1902年(明治35年)からは約5年半にわたり『新民叢報(しんみんそうほう)』が発行されました。華僑には印刷業を営む人も多く、その技術は新聞や雑誌の発行にも活躍したことでしょう。

中華街の一角からはじまった日本の新聞文化。日本の新聞の父とも言われるジョセフ・ヒコの石碑にも、ぜひ立ち寄ってみてください。

1898年(明治31年)12月に創刊された『清議報(しんぎほう)』は致生印刷所が、1902年(明治35年)2月に創刊された『新民叢報(しんみんそうほう)』は文経文具店が発行していました。

取材協力:横浜開港資料館
参考資料:横浜開港資料館『横浜もののはじめ考』・『資料が語る横浜の百年』・『図解 横浜外国人居留地』、町田市立博物館『明治の新聞展』
※画像は横浜開港資料館より許可を受けて掲載しております。画像の無断使用・転載はおやめください。

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